講演会「種子法廃止とこれからの日本の農業について」
川崎市で開かれた「種子法廃止とこれからの日本の農業について」という講演会に行ってきました。
このチラシの講演会。
講演者は元農林水産大臣山田正彦氏。どんな内容だったか少しまとめてみます。
それと、この講演会に行く前、種のことについて基礎知識を少し勉強しました。
その内容をまとめた「予習編」はこちら。
・植物の体ってどんな風になってるの?
・そもそも品種ってどんな風に作られてるの?
・F1とか固定種とかって何?
など下記にまとめた講演会での話を理解する上で参考になれば幸いです。
それでは、今回の講演会について、どんなお話だったか。
(これ以降『』内の言葉は講演で配られた資料にある言葉を引っ張ってきた言葉になります。)
まず、種子法とは
今回トピックとして上がっている種子法は正式名称「主要農産物種子法」と言って、コメ・麦・大豆を対象としています。
どんな法律かというと、
『これまでコメ、麦、大豆の伝統的な日本の在来種を、種子法によって国が管理し、各自治体に原種・原原種の維持、優良品種の開発、奨励、審査を義務付けてきた』との事です。
この法律が根拠となって農業試験場の運営などに必要な予算が付き、都道府県のJAや普及センターなどが種子の生産を行ってきました。
それによって『優良品種を公共品種としてコシヒカリなどの品種を1キロあたり500円などと安く提供でき』ました。
どんな背景で廃止になったのか
日本がTPP協定を批准したので、TPP協定に沿っていくつかの国内法の整備に取りかかっています。例えば以下の法律が含まれています。
『・主要農産物種子法を廃止
・カルタヘナ法の改正
・農業競争力強化支援法
・水道法の改定
・農村地域工業誘導推進法
・市場法の廃止
・官民連携推進法』
様々国内法が整備される上でそのひとつとして今回の種子法の廃止があったそうです。
種子法が廃止されることによって何が変わるのか
種子法が廃止されるとはつまり、主要農産物の種子の開発や維持を自治体に義務付けてきた根拠となる法律がなくなるということです。
根拠となる法律が無くなるからといって、そう言った種子の開発や維持に予算がつかなくなるとはすぐには言えません。
しかし、今後予算をつけなくなるのではと危惧されているようです。
もし、予算をつけなくなるとどうなるか。
自治体での種子(公共品種)の開発や維持が行えなくなる
↓
民間から種子を買うことになる
↓
種籾を買うのに4〜7倍のお金が必要になる
現在、民間の会社の品種の価格は、公共品種の4〜7倍の価格で販売されていることから。
さらに、
『民間の品種はF1品種なので、自家採取できずに毎年新たに種籾を購入しなければならない』
『農家は民間会社と直接契約して、肥料・農薬などの資材は全て購入が義務つけられ、収穫した米も他に出荷することができない。』
とのことです。
(民間が種籾を栽培する量が増えるとある程度は現在より安くはなるのかなと思いました。あと、種籾がそれだけ高くなったらお米の生産を止める農家さんが多く出そう。)
これによって、『かつて野菜の種子は国産100%だったが、今では90%が海外生産されるようになった』ことを踏まえ、現在全て国産で自給しているコメ等主要穀物の種子も同じように海外生産になるのではないかと危惧されていました。
他の法律との関連
種子法の廃止による影響は他の法律との組み合わせで理解した方が良さそうです。
(1)農業競争力強化支援法
すでに、メキシコの農家はトウモロコシ、フィリピンの農家はコメの特許料を多国籍企業である会社に払っている
『農業競争力強化支援法第8条4項により、これまで日本が蓄積してきたコメ等の原種、原原種、優良品種の知見を全て民間に提供することになっている』
また、政府は譲渡先を外資も除外しないと答弁しているなどのことから、
民間がそれらの種子から『応用特許を申請し』、例えば日本のコメ農家が米国企業へ特許料を支払うことになるおそれがあると言います。
(ここのところはイマイチ理解できませんでした。コシヒカリの知見を提供された民間が例えば「コシヒカリスーパー」という品種を開発し応用特許を申請した場合、その品種を使用するのに特許料を支払うという話でいいのかな。)
(2)カタルヘナ法(農林水産省のページへ)
日本でも既に遺伝子組み換えコメ品種が開発され、現在茨城県の隔離圃場で栽培されているとのことです。
『これまで遺伝子組み換えの種が生態系を破壊する危険性があるとしてカルタヘナ法によって原状回復義務などが厳しく定められてきたが、この国会で同法の改正がなされ、作物については規定対象から除外し、コメ等の作付ができる用意がされている』
とのことで、『コメも申請すれば承認される手はずが整っている』とおっしゃっていました。
(ここもちょっと理解できてなくて、種子法廃止云々に関わらず、既に隔離圃場では栽培されていて、承認されれば国内どこでも遺伝子組み換えのお米の品種が作付けできるようになるってことなのかな。それで、種子法が廃止されて民間でのコメの種子が広まることになると、遺伝子組み換えの品種のコメが全国に広がるって話?)
講演では、種子法に重心を置いた話がこの辺りまでで、だんだんとTPP協定全般の話に移ってきました。
例えば、
・『遺伝子組み換え食品が輸入され、その表示もできなくなる?!』
・『牛肉、豚肉などの「国産」表示もできなくなる?!』
・『野菜、果物などの「産地」表示ができなくなる?!』
・『日本のすべての農産物は7年後の再交渉で関税が撤廃される?!』
・『郵政民営化と同様にJAは金融、共済、営農が分割される?!』
こういったトピックでした。
以上の話を踏まえて今後日本の農業はどこに向かえばいいかという提言をされていました。
そこでの話まで載せると長くなるのと、最後早足で理解が追いつかなかっこともあって、まとめはここまでとします。
以上が、講演会で山田氏がお話になった内容となります。
ちょっと感想
自分(このブログを書いている山田。苗字一緒ですみません)の不勉強な点が明るみになったなと痛感しました。
(1)食糧生産を国や自治体が行う義務と考えるのか、市場に任せるのか、任せるならどこまでか
今回の主要農産物の種の話はその点が論点になっているのかと思いました。山田氏は最後、「ヨーロッパ型の農業は収入の8割を国の助成金で」といい、日本の農業もヨーロッパ型になるべきだとおっしゃっていました。農業と一口に言っても、お腹を満たす側面が強い作物と嗜好品に近い作物とがあり、線引きは難しいと思いますが分けて考えないとなと思いました。
というかそもそも、農家さんの所得保障の制度など日本の農業の制度的な知識が全然ないなと。現状どの程度、どういう補償の仕方をしているのか知らないですし、どうあるべきなのか考えてこなかったことを反省しました。
(2)新しい技術との付き合い方
講演会では始終危険なもののように語られていた遺伝子組み換え技術。「なんだかヤバそうだなぁ」という感覚は自分にもあるのですが、新しい技術に関してはそう思うのが普通なのかなという気持ちもあったりします。
危険があると研究で証明されたという話も聞かないから大丈夫?
いや、もっと長く研究しないと本当に安全かどうかは分からないだろ。
などと思うのですが、実際どうなんですかね。
今の自分の意見としては、危険性はよくわからないけど、植物とか動物とかの遺伝子を、時間をかけずに操作するのはちょっと人間おこがましい気がするので、出来ればあまりやらないで欲しいという意見です。時間をかけずっていうのは、近くで育てた植物や動物が勝手に交雑や交尾をそれぞれの生涯の中でするのはいいけど、人間の都合でチャチャってやるのはなんか嫌だってことです。意見というか気持ちかもしれませんが。
例えば農園で飼っているグレ(ヤギ)の子供がメスヤギのお腹に宿ったとして、そこに研究者がやってきて「遺伝子を操作して健康な子を産むようにできますがどうしますか?」と聞かれたらNoと答えると思います。じゃあ知らないヤギならYesというのか。ヤギはダメだけど植物はいいのか。Noと言う線引きをどこにするかは人それぞれだとは思います。だから少なくとも表示はしてもらい、購入という形の応援はしたくないなと思っています。
こういう気持ちの部分から遺伝子組み換え技術はあまりやらないで欲しいですが、この技術を進めないといけない切羽詰まった理由でもあるんですかね。そういう話を聞いたら意見が変わるかもしれません。
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