福祉関連の方に知ってもらいたい農家の4つのこと
農福連携にとって藤沢市がすごいポテンシャルを秘めてるんじゃないかと思い、書いているシリーズ。
「農」と「福」が連携する上で、「農業」と「福祉」お互いの理解と歩み寄りが必要だと思い、先日は農家から見て福祉のことで知らなかった点をまとめてみました。
今回は、福祉関係の職場で働く方や、そもそも農業者じゃない人にとって「農家」とはどういうイメージであり、それが実際とはどう違うかをまとめてみようと思いました。
もちろん個別に見ると色んな農家さんがいます。そして個別に見ると農福連携も多様な形があると思います。しかし、全体として見ることで、よく言われている「農福連携」はどんなところに難しさがあり、どんなところに可能性があるのか、よく見ることができるのではないかと思っています。
以下、こんな感じでまとめています!
(0)「農家」とは?私が考える「農家」イメージ
(1)農家の数はどんどん減っている。
(2)農家は高齢の方が多い。
(3)農家は自営が多い。
(4)農家はあまりお金を稼いでいない。
(0)「農家」とは?私が考える「農家」イメージ
まず、本題に入る前にちょっと私の話を。
私は現在、藤沢市にある体験農園コトモファームでスタッフをしています。
出身は岡山県、大学で北海道に行き、埼玉県で新卒として働き始め、農家になろうと神奈川県藤沢市に来て農家さんの元で研修を行い、結局独立はせず、体験農園コトモファームを運営する「株式会社えと菜園」に勤めています。
→このあたりの経緯は他の記事へ
地元での農家さんのイメージは、家の近くにあるちっちゃな田んぼでお米を育てているご老人といったものです。「農家」というより、ご老人はちっちゃな田んぼを結構持ってる、くらいのイメージでした。
高校生になり、友人に家が農家のやつがいて、そいつの家に遊びに行った時、でかい機械、でかい家、広々とした田んぼ、なんか大きなマショマロみたいなのが田んぼ置いてある、といったものを見ました。これがいわゆる「農家」ってやつか、と思いました。
大学では北海道に行き、縁があって数人の農家さんと知り合いになり、家に遊びに行かせていただきました。そこで出会ったのは、身長くらいあるタイヤを持った巨大なトラクター、見渡せない田んぼやジャガイモや玉ねぎ畑、といったものです。そして若手のマッチョで闊達な方々が経営者となりバリバリやっている。
埼玉にある会社に就職して、農家になりたいなぁと思い、いくつか見に行った関東にある農家さんは、多品目の野菜を育てて直接消費者に売っていたり、パーマカルチャーっていうんですかね、自分でトラクターの燃料を作っていたりしていました。ビジネスというよりか、生活と野菜作りが一体となり、そこの野菜を買う人は商品を買うというよりか、お互いの生活を支え合っている関係のように見えました。
要するに、一言に「農家」と言ってもいろんな農家さんがいるなぁというイメージです。あと、いい人が多いなぁとも。
ただ、自分のようなどこの馬の骨とも分からないものに農園を見せてくれるような人としか出会えないので、農家さんだからいい人、ではなく、いい農家さんとだけ出会ってきたんだと思います。営業の人とだけ話をしてサラリーマン全員が外向的だと思うのは間違いなように、農家も自分があってきた人だけでイメージを作るのは違うのかなと。
農業も畜産なのかお米なのか、消費者に直接売ってるのか農協におろしているのか、加工品も取り扱ってるのかとか色々あり、農家ごとに違いがある。だから福祉の方も連携を考える場合、イメージとして「農家」と連携できるかどうかではなく、一人一人の目の前にいる農家さんと連携ができるかを考えるのがいいかと思います。
ただ、そういいつつも、全体としての傾向を知っておく良いと思うので、以下は統計を見て、農家さんは全体としてはどんな感じなのかをまとめています。
(1)農家の数はどんどん減っている。
まずはですね、よく耳にするかもしれませんが、農家数や農業従事者数は減っています。
キャノングローバル戦略研究所 日本労働研究雑誌 No.675 掲載(2016 年 10 月号)
農業従事者数は1955年には1932万人いたのが、2015年には5分の1とか6分の1の、340万人になっています。農家戸数も604万戸から133万戸へ。
この数だけ見てもすごい減ってるなと思うんですが、日本の人口が1955年は約8900万人で、2015年は約1億2700万人で3000万人くらい増えているのに、と考えると尚更です。
4~5人に一人が農業従業者だったのが、今は37〜38人に一人くらい。まあ身近ではなくなってるなぁと。
さらに地域差もあると思います。例えば、神奈川は人口が920万人くらいいて、そのうち農業従事者数は4万8千人くらいでさらにその比率は少ないわけで。
(2)農家は高齢の方が多い。次に農家さんの年齢構成。
60歳以上が77%。これもまた中々びっくりする数字です。
キャノングローバル戦略研究所 日本労働研究雑誌 No.675 掲載(2016 年 10 月号)
この数字って田舎(わが故郷岡山県津山市とか)の人が見ると、「まあ周り見渡した感じそうだな」って実感と近いと思うんですが、藤沢の人とかだと驚くんじゃなかろうかと。
というのが、藤沢市(の特に南)で農家さんが野菜を売っている姿を目にする人も多いと思います。そこで売っている人って基本的に若いんですよね。20〜50代の人が多いんじゃないかと。「都会で目にする農家さん」は若いんですよね。「都会で目にする」ってフィルターをかけるだけで、高齢の農家さんが見えなくなるので、ここも「農福連携」を考える上で注意が必要なんじゃないかなと。
(3)農家は自営が多い。
あとこれも知っておくといいのではないかと思うのが、農家さんは自営が多いんですよ。
農業における雇用の動向と今後 松久 勉
上の数字ばっかの表はどこを見ればいいかわかりづらいと思いますが、ここでは、「販売農家」で常に人を雇っているところは1.9%というところを見て下さい。常にでなければ、もっといると思いますが、なんというかいわゆる会社として、代表がいて何人か雇われているっていう組織は全体として少ないのかなと。(もちろんそういうところもありますが!)
理由を考えると、おそらく季節によって忙しさが違うことが大きいのかなと。例えば北海道の農家さんで私が出会った人は、農業ができない冬はスキー場でバイトをしてたりしてました。
このですね、9割近くがサラリーマンの日本で「自営が普通」の農業界はちょっと文化が違うと感じます。例えば、弊社の社長に「話を聞かせてください」と訪れる方が結構います。恥ずかしい話私も、今まで似たようなことをしてきたことがあるのですが、今ではこれはすごく失礼な行為に当たるなと思うようになりました。
例えばトヨタ自動車さんとかの会社の中に入って、「すみません社長います?話聞きたいんですけど」って言わないですよね?(逆に大物か・・・)
組織の大小に関わらず、代表は、「その時間もお金が出ていっている」という感覚を持っているようです。私は持ってなかったなぁと。これに気をつけておかないと、話を聞きに行っている時間、自分は会社から給料が出ているかもしれませんが、相手からは時間を奪っていることになっている。本当ならその時間、その人は別に利益を生む行為を行えていたわけです。
そして農家さんは自営の方が多いんです。気にしないという方ももちろんいますが、そういう人でもやはり「相手に時間を使ってもらっている」という感覚を持たずに来た人に対しては、苛立ちを感じているように見えます。
(4)農家はあまりお金を稼いでいない。
あとこれですね。農家さんはあまり所得が高くないんですよ。2011年の農家世帯の就業者1人あたりの所得が204万円ほどで、勤労者世帯の就業者1人あたりの所得が371万円ほどと倍近い差があるわけです。
農業所得・農家経済と農業経営 基礎研究部長 清水徹朗
もちろんしっかり稼いでいるところもありますが、全体としては農業者以外の方がたくさん稼いでいる。
まとめ:新しい農福連携の可能性
(会社としての意見じゃなくて、記事を書いている山田としての意見です)
いわゆる「農福連携」は少し難しそう
農福連携でよく出てくる「農家の担い手不足に!」という話は、(1)(2)にあるような農業者の数は減り、高齢者が多いのが背景にあるんですかね。
ただ「なんで担い手不足になってるか」を考えると(4)の所得が少ないからなのかなぁと。。。
あと、(3)で自営をやっているところが多く、人を雇っているところが少ないことを考えると、農福連携でいきなり人を雇うという話になるのは難しそうだなと。
そして、また(4)ですが、基本的に所得の少ない産業なので、農福連携で所得アップというのも結構難しそうだなぁと。。
なんて暗い方向ばかりに見てしまうわけですよ。
小さな自給体験、価値を与える経験が得られる農
そんな中でも何で私が農福連携にどこに可能性を感じているのかというと、農業を行うと「生活の自給度が上がる」ところと「価値を生み出す経験が分かりやすく行える」ところなんですよね。
農スクール※に来る人や就労移行支援所などに通っている方の話をすると、よく耳にするのが「いきなり一般就労はハードルが高い」「中間的な就労の場が欲しい」という声です。
※農スクールについてはこちら
この中間的就労の場は一般的には、働いてない状態から一般就労との間、福祉的就労から一般就労との間を指すようです。ただ私としては、一般就労を目指すにせよ目指さないにせよ、生きていく上では別の道があると思っていて、それは「自給自足」です。
は?何言ってんの?と思われたかもしれません。完全な自給自足は難しいかもしれませんが、私の言いたいことは難しい話ではなく、まず誰かにやってもらっていることを自分でやるところから始めるのはどうか?という提案です。
外食やお弁当を買って暮らしているのなら、自分で料理をしてみる。自分で料理をしているのならその素材となる作物を自分で少し育ててみる。
お金を払って得ていたものは、どこかの誰かの労働によって成り立っているものです。お金を払っていなくても家族など誰かが代わりにやってくれている労働です。その労働をまずできるところから自分でやってみる。
大抵、何かしら援助を受けている状態から就労しようとなると、図の右側、組織に勤め給料をもらう形を目指すと思います。
しかし、そうではなく、図の左側、自給的に作物を育ててみるのはどうか?
もしあなたが福祉の現場でサポートする立場にあるなら、利用者さんと一緒に畑に行って、作物を育ててみてはどうか。
生活を手元に戻すことが自信を取り戻すきっかけに
観念的になりますが、自分の生活を成り立たせていることが、一つでもコントロール可能なものになると、すごく自信になります。その分かりやすいものの一つが自分の食べ物を育ててみるという経験です。
さらに自分の畑で育てて、野菜が採れすぎたら周りの誰かにあげてみる。人に価値を与える体験をする。そうしたらもしかしたら何か返ってくるかもしれないし、お金が返ってきたらすでにそれはもう商売です。
農スクールなど畑で自信を取り戻していく人を見ていると、一つにはそういう誰かに価値を与える経験が大きく関与しているように思います。誰かに何かしてもらっても自信はつきませんが、何かを与え、しかも喜ばれたら嬉しいし自信になりますよね。野菜作りはそういう意味ですごく分かりやすい。
そういった農業の自給的な側面がものすごく「就労支援」に生かせるのではないか。
お金を払って他の誰かにやってもらっていたことを一度自分の手元に戻してみる。そして逆に、自分の手元で生み出した価値を他の誰かにわたしてみる。そういった働くことの根源的な形を農業だと経験できる。
色々な技術を身につけてもらう「就労支援」ももちろん大事だと思いますが、価値を生み出し誰かを小さくでも喜ばせる機会を用意する「就労支援」があるといいのではないか?
農福連携の街、藤沢
初めに書いた藤沢市が農福連携の可能性を秘めていると書いたのは、畑と都市とが近いことが大きな理由です。福祉を必要としている人の絶対数は都市が多いと思いますが、いきなりビジネス的に農業を大規模にやっている地方に移るのはハードルが高い。藤沢市は都市とも近いし、畑もあり、小さく農業を始めやすい。
いわゆる農福連携を否定しているわけではなく、大規模にやるイメージを持っていて一歩行動に移せていないのなら、市民農園でも借りて小さくやってみるのはどうかと提案したいのです。スコップで耕し、種を蒔けば始められる農福連携。
就労支援について書いてきましたが、もちろん農のいいところはそれだけに限りません。例えば介護施設に通う方が何か野菜を育て、少しでもその人の人生がより良いものになる、そんな形もあると思います。
えと菜園で農福連携に関しできることとしては、そういう小さく始める人をサポートすることなのかなと思っています。
このことは畑の会員様から学びました。介護施設で働く方が、施設の方と一緒に体験農園に来て野菜作りをしているのを見て、当園のサービスはこんな風に使えるんだ!と感動しました。もうこれは農福連携だよな!と。
そんな風にですね、小さく農福連携を始めてみませんか?
→ブログ「農福連携を始める最小のステップ」へ
(福祉とはまた別ですが、畑で新たな価値を生み出した会員様の例も載っています。)
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