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「あの人に聞いてみよう!」№1-小杉俊哉先生「野菜と人の育ち方は似ている」


小杉俊哉  合同会社THS経営組織研究所代表社員、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、 慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授、一般社団法人多様性キャリア研究所特別研究員その他数社の社外取締役、社外監査役、顧問を務める。

1958 年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、NEC に入社。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク、ユニデン(株)人事総務部長、アップルコンピューター(株 ) 人事総務本部長を歴任後、独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、慶應義塾大学SFC研究所上席研究員を経て現職。

著書に『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ3.0』(祥伝社新書)、『2%のエース思考』(ワニブックス)など。

ー手をかけすぎてもいけない

 以前は自分でも自宅で毎年野菜を作っていました。と言っても作りやすいものばかりで、トマトとかゴーヤとかきゅうり、なす、ハーブ系のもの。自分でやってて思ったのは、手をかけすぎてもいけないなっていうことでした。水をやりすぎたら根腐れしたり、栄養剤もやりすぎるとうまく育たない。 虫がつくからって農薬まいたりすると、収穫しても食べたくないわけですよ。売ってるものはそうなのかもしれないけれど、自分で作るものは、農薬をまいたりしてるのを分かっていると食べたくないんで。

ー見ててあげなくてはならないし、関わりすぎてもいけない。そういうところが人材育成と似ている

 野菜作りは素人なので、正しいかどうか確証はないですけれど、自分のやっている 人材育成と似ているんじゃないかと思っています。前述のように、手を掛けすぎてはいけないのですが、野菜は基本的に見ててやらないといけないと思うんですよ。放置しちゃうと雑草がいっぱい出てくるし、旅行とか1週間出ちゃうと、プランターだったらカラカラになっていたりして取り返しがつかなくなる。たとえ、地植えでも何週間も放置していたら大変な状況になりますよね。 虫がついたらこまめに払ってやらないといけない。実がなってるのに収穫できず、落ちてしまったり、固くなってしまったり。

 つまり、見ててやらなくてはならないということです。定期的に雑草取りしたり、整えてやったりしないといけないけども、関わりすぎてもいけない。手を加えすぎてもいけない。そういうところが、人材育成と似ているんじゃないですかね。

ーコントロールしようとすると、育たない。

 自分の思うようにコントロールしようとすると、育たない。その土地とか土の事を知らないといけないし、季節によっても対応が違うと思う。そういうことを知らないで、自分の知識でそれを当てはめてやろうとしても、きっといいものができない。

栄養剤を沢山あげたりしちゃうと、それではいいものができない。そういうところが農業と全く一緒なんじゃないかな、と思うわけです。

 基本的にはすごく辛抱強くなくてはいけなくて、見守っていなければいけなくて、そして、必要な時は手を加えてやらないといけないんだけど、でもコントロールはできない。まさに自著のリーダーシップ 3.0(支援型リーダー)そのままじゃないか、と。

あくまで育つのは本人だから、そういう意味では野菜作りや農業とかかわると、人材育成の勘所みたいなことが練習できるというか、気づきを得るのではないか。あ、そういうことなんだ、今までのやり方が違ってた、そんなに思い通りにならないんだ、ってことが分かるんじゃないかなと思います。

ーゼミ生を連れて畑に来ることも

 まず、今の多くの子が土を触ったことがない。小さいころからそういう経験がない。それは非常にまずい。実際に雑草を抜くだけでもこんなに根が張ってるんだと驚く訳ですよ。数日見ていなかっただけで、すごく大きく太くなっていて、たくましくて、私はそれを見て「雑草のように なりたい」と思うわけですよ。踏みつぶされても生えてきて。本当にすごいなって。

 そんなわけで、毎年小島さんの農園にゼミと一緒にお邪魔するわけです。硬くなった家の庭とかだとなかなか抜けないけれど、畑だと根っこがずるずるずるって抜けて気持ちがいい。そうやってこう、草を抜いて土が見えてきてきれいになって、やってるのはそれだけ。苗を植えさせてもらったこともあるけれど、雑草抜くだけでもすごく達成感があって、そのあと、畑の横でやらせて貰う BBQがすごくうまい(笑)。

ー感性みたいなものが養われる

 わざわざ農地にいかなくても、同じことは親が家庭菜園を一緒にやったりすれば経験できたりするし、あとはキャンプとか連れていくことを強く勧めますね。基本、土の上で食事し、寝るわけで、虫がいるのは当たり前て、地面に落ちた食べ物も別に汚いわけじゃないから、払って食べる。小さいころにその経験をさせた方がいい。自然の中で地面に寝るとか、雨が降ったら大変だとか、あるいはそういうときは父親が活躍して、威厳を見せることができるとか(笑)。

 私は子供が下の子が幼稚園、上の子が2年生くらいから、3年間で 50 回くらいキャンプに連れてっていました。下の子は女の子だけど、泥んこになって兄と一緒に遊んでいたので、土は楽しいとか、柔らかいとか、温かいとか冷たいとかそういう感性みたいなものが養われる。

 だから、まさに直接土にさわれる農業の体験とかをすると、気付きがすごくある。土は雑草生えているところだけ見ていても分からないじゃないですか、五感をフルに使わないと、あるいは危険察知や予知で第六感も使うかも知れない。そこに生命の営みみたいなものがあって、そういうことを小さい子は頭で理解するわけではないと思うけれど、なんか感じる。そういうことにすごく役立っていると思う。

ー一般的な企業に勤める人が、週末に土を触る作業をすることの意味

 放電とかデトックスですね。手で土を触るとそこから地面と繋がるわけです。さらに可能なら、裸足になるといいですよね。裸足で走り回って土を踏むとすっごい気持ちがいいですよね。私は子供のころ、耕したばかりの畑を裸足で走り回るのが大好きでした。今思うと、農家の方に大変申し訳なかったなと思いますが。

 学生は普通のキャンプより畑でやる方がテンションが上がってる。雑草抜いたりしているから達成感と自然との一体感みたいなものを感じるみたいですね。

 社会人は、会社勤めで高層ビルにいてエレベーター使って、パソコン使ったりしていると、心身のバランスを失うじゃないですか。そういう生活してると物理的にパソコンに向かっていると帯磁してきて体に悪いんですよ。スマホもそうです。そういう状態を長く続けていると、頭も疲労するし、精神的にもかなり疲弊する。

 スポーツクラブに行ってマシンを使って、ランニングしたりしてもいいんだけど、一番いいのは土ですね。もちろん、海でもいい。砂の上に素足をさらしているとすごく放電されるのを感じます。

ー何かに自分が関わって「成した」ってことを味わえる

 あとは、野菜と関わっていると、育てる喜びがある。自分が種をまいた ものが育っていくことはすごく充実感がある。何かに自分が関わって「成し遂げた」 っていうことはなかなか仕事では味わえない。仕事で達成感を味わえない人っていっぱいいますよね。全体像が分からないまま、この仕事をやれって渡されて、やって怒られて、それを毎日こなしていくって。充実感が味わいえない人が多いです。

 一方、自分が主体的にかかわって、生命を持ったものができるっていう、ことは素晴らしい体験です。そこに自分が関与して、花が咲くとか実がなるとかそういう経験はものすごく重要だと思う。芽が出るのを見るっていうのは希望ですよね。

 農作業は体にもいいですよね。暑いときは汗かくし、寒いときは ハアハアいうくらい身体を動かすと心肺機能が高まるし、粘膜も強くなります。あと、季節感ですよね。せめて犬の散歩とかしている人は日々季節を感じることができますよね。自然と接していると、春のある時一斉に芽が出るのを見るっていうのは「希望」を感じますよね。真っ黒な木から一斉に芽吹き、気がつくと一面に葉っぱが覆って、新緑の世界になる。人間も日々多くの細胞が生まれ変わっています。また再生できるっていうか。希望をもてますよね。草木を見ていると。それはやっぱり外に出ないと味わえない。

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